シリアス
ゴロハチVXはいわゆるギャグメモ作者ですが、本ブログの「ゴロハチVXの作風」の項目でも触れたように、彼の作品の多くには、シニカルさや未熟ではあるものの体制批判の姿勢が内包されています。また、「学校シリーズ」スピンオフ作品のひとつ「マイナスシリーズ」の中には、きわめてシリアスな内容のメモもあります。すなわち、2013年2月17日から3月28日にかけて断続的に公開された、連作「開かずの扉」(「-7」、「-8」、「-9」および「0」)がそれです。
*「0」は非常に音質が悪いので近いうちに差し替えます
差し替えました(2021年3月3日)
「開かずの扉」の内容分析は別の機会に行うことにして、ここでは、ホラーに近いシリアスな作品が存在する事実だけ確認しておきます。その上で、このようなスタンスが、最初期の作品である「削除のお話(前・後半)」においてすでに見られることに着目しましょう。
制作は2010年3月23日です。
プロット自体はSFの定番のひとつといえるものでしょう。同様の発想に基づくSFのなかで当時の小学生が接しえた作品としては、藤子・F・不二雄『ドラえもん』の「どくさいスイッチ」あたりが有名でしょうか。
出典:ドラまとめ
当時のゴロハチVXが「どくさいスイッチ」を読んでいた否かは定かではありませんが、わたしはこの意味で「削除のお話」をありきたりで借り物に過ぎないSF譚と捉えていました。
しかし、ゴロハチVXによれば、そのように評価されることは心外だそうです。この作品は当時の彼の魂の叫びであり、彼のアイデンティティを破壊しかねなかった恐怖と不安を、うごメモの形に昇華して解消することに成功した、最高傑作のひとつなのだといいます。どういうことでしょうか。
当時、ゴロハチVXは、せっかく描いたメモを自分の不注意で保存前に消去してしまった経験などから、この世には唯一絶対の存在で決して代替がきかないものがあること、そして、いったん行ったら取り返しのつかない類の行為があることに気づき、激しい絶望と底知れない不安に囚われていたそうです。
そういわれてみると思い当たることがあります。このころのゴロハチVXは、デジタル式やクオーツではない、手巻きの「ゼンマイ式時計」が大好きで、クラシックな形の目覚まし時計を大切にしていました。
*こんな形の時計です。
あるとき、「あんまり強く巻くと壊れちゃうぞ」と注意したら、それ以来、非常に丁寧にゆっくりとゼンマイを扱うようになりました。はたから見ると滑稽に感じられるくらいでした。当時の彼にとって、あの時計は、絶対に壊してはいけない、かけがえのない唯一のモノだったのでしょう。
「削除のお話」は、小学生の彼にとっては逃れようのなかったこの種の恐怖と不安について、これと正面から向き合い、内省し、その上で自らを開放する機能を果たした重要な作品だったわけです。
シンプル
次に紹介するメモは、「削除のお話」とは正反対のスタイルですが、やはり最初期の作品群の中では良作といえるものでしょう。2010年5月6日制作の作品です。
構成もなにもないシンプル極まりない作りですが、最初の公開作品「トンネル」同様に、ループで観ていると止められない魅力があります。わたしの大好きな作品のひとつです。
また、「シンプル」といえば、この作品にも言及しておくべきでしょう。
公開したのは少し後ですが、これはシアターに参加する前の作品で、すなわち「トンネル」より先に描いていたメモのひとつだそうです。
登場人物は、小学校低学年時代にゴロハチVXが描いていたオリジナル漫画『二人きょーだい』の主人公「四海コージ」です。そういえば、四海は「削除のお話」にも出ていますね。
名前の由来
「『ゴロハチVX』というユーザーネームは熊本にある居酒屋『五郎八』に由来する」。ネット上では、これが定説となっているようです。また、かつては、「新潟菊水酒造の『にごり酒 五郎八』にちなんだ名前」だという説も唱えられていたように記憶しています。
しかしながら、いずれの説も正しくありません。ちょうどよい機会ですので、ここで命名の経緯を確認しておきましょう。
ゴロハチVXがまだ最初の作品を公開する前でメモを描きためていたころ、「うごメモを投稿するにはユーザーネームが必要なんだけど、何かいい名前ないかな」と相談を受けました。
たしかその時、わたしは晩酌中ですでに良い気持ちになっていたこともあり、「『ゴロハチ』なんかどうだい」と軽く答えました。わたしの頭のなかにあったのは、筒井康隆の『五郎八航空』という短編小説です。
すると、ゴロハチVXは、「いいね」とすんなりこれを受け入れて、「でも、ちょっとあっさりしてるかな」といいます。そこで、「じゃあ、おしりに『VX』でもつけたら」と提案したところ、これも採用されたというわけです。「VX」にとくに意味はありません。「フェアレディZ」や「ヤマハRZ350」などのように、アルファベットの後ろの方の文字を名前にくっつけるとなんだかカッコいいという程度の発想です。
もっとも、活動初期のころは「VX」を外して単に「ゴロハチ」といったり、「ゴロハチ・デラックス」と名乗ったりもしていたようですね。また、「VX」が化学兵器の「VXガス」を想起させるとして、このことを気にしていた時期もありました。
以上、今回は初期の作品群のうち、特徴的なものを取り上げて検討しました。
次回は、「VS棒人間」について検討する予定です。
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